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by kabashima_h

『<改革>の技術――鳥取県知事・片山善博の挑戦』に見る改革派知事の手腕

 改革派知事の「西の横綱」と勝手に呼んでいる片山善博・鳥取県知事(ちなみに「東の横綱」は岩手県の増田寛也知事)の県政運営を検証した『<改革>の技術』(田中成之著、定価=本体1800円+税)が岩波書店から発売されました。著者の田中氏は毎日新聞記者で、現在は東京本社の政治部にいますが、片山知事が誕生した直後の1999年6月から無投票再選された2003年4月まで鳥取支局で勤務しました。片山県政を間近でつぶさに観察していただけあって、その濃厚な内容には舌を巻きます。

 本書では、あの有名な鳥取県西部地震における迅速な対応や、県議会との軋轢からその活性化へいたる過程、BSE対策や道路公団民営化をめぐる政府サイドとの対立などが具体的に描写され、さらに片山氏の生い立ちから知事選に担ぎ出されるまでの経緯がエピソードを交えて紹介されています。なんといっても強く印象に残ったのは、前知事が残していったハコモノ事業という「負の遺産」を整理したときの政治手腕の強かさです。

 新しく知事の座に就いた者が真っ先に直面するのが、継続事業への対応です。選挙で中止や凍結を打ち出していればまだしも、片山知事のように前県政の多数与党によって担ぎ出された者が前任者の敷いたレールから外れて走り出すのは容易なことではありません。それを片山知事は、最初は隠していた本音を、地元や県議会の動きを見ながら絶妙のタイミングで切り出すことでやってのけたのです。鳥取環境大学は経営体制を見直し、県立美術館は凍結、砂丘博物館は中止、そしてカニ博物館は大幅な規模縮小といった具合です。この間のことが時系列で詳述されています。

 著者は、政府の地方分権改革推進会議議長の東芝会長を片山知事が批判したときの「東芝製品不買騒動」を「県政運営手腕のほころびの兆候」と見ているようですが、当時の私は、自分自身(あるいは所属する組織)が何らのリスクを負うことなく政府の走狗となる審議会委員のモラルハザードに腹を立てていたので、「よくぞ警鐘を鳴らしてくれた」と溜飲を下げたものでした。この評価の差は、近くで観察している者と、遠くから眺めている者の違いから生じるのかも知れません。

 本書のサブタイトルは「鳥取県知事・片山善博の挑戦」です。中身は確かに日本で一番小さな県に関することですが、底流には全国の自治体に共通する課題があります。その意味では、優れた首長研究の書ということができるでしょう。全国に知事は47人います。1人につき1冊ずつでいいですから、このような都道府県政を検証する本が著されることを期待して止みません。それは、各地で地方政治を定点観測しているメディア人の責務でもあります。

メルマガ「チホウ政治じゃーなる」vol.305の「発行人より」から
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by kabashima_h | 2004-12-13 17:28 | 鳥取県